技術基準対象施設の性能設計に関する規定、用語解説を以下に述べます。この項目は、海洋港湾構造物維持管理士試験では1問目又は2問目に出題される可能性が高い項目であるため、試験を狙っている人はよく理解する必要があります。また試験を狙わなくとも、業務を行う上での基本中の基本になりますので、できれば技術上の基準解説書本文を読み込んで、理解しておくと色々と捗ります。
1.性能設計
1.1 性能設計の体系(この体系には階層性があることを押さえましょう)
性能設計の枠組みはピラミッド型の階層構造を基本とします。ピラミッドの頂点から「目的」「要求性能」「性能規定」があり、底面に「性能照査」があります。このうち「目的」「要求性能」は省令で定められ、「性能規定」は告示で定められます。いずれも法令で規定された「遵守すべき事項」という事になり、法的強制力を持ちます。一方「性能照査」は任意事項となります。「目的」と「要求性能」は、誰でも理解できる用語で省令にて定められます。「性能規定」は性能照査が具体的にできるように工学的用語で告示にて定められます。
1.2 性能照査
性能照査とは、告示で定められた性能規定が満足されているかどうかを照査する事です。どういう手法で照査をおこなうべきかについて特定の技法は定められてはいません。また限界値の設定についても設計者の判断が尊重されます。
2.性能設計関係の基本事項
用語の定義については省令と告示に定められています。
2.1 省令にかかわる用語
一 要求性能
技術基準の対象施設が、施設の目的を達成するために必要とされる性能のこと。大きく分けて施設ごとに規定されるものは「使用性」「修復性」「安全性」「供用性」があり、施設に共通して規定されるものとして「施工性」「維持管理性」があります。
① 使用性
使用の際に不都合なく使用できる性能のこと。想定される作用があっても損傷しないか、あるいは損傷してもすぐに修復できて本来の機能が発揮できるもの。
② 修復性
技術的に可能で、妥当な予算で修復して継続的に使える性能。要は想定される作用があっても損傷が軽微で短期間のうちに修復して使用できる性能という事です。
③ 安全性
人命の安全を確保できる性能。
【基本的な考え方】
永続作用と変動作用(後述)の場合、使用性が確保されていれば、修復性・安全性も確保されていると考えます。
偶発作用の場合、その施設がどういう機能を発揮するか、あるいは重要度に応じて使用性、修復性、安全性の中から選択することができると考えます。
なお、偶発対応施設としての防波堤、防潮堤、水門と閘門については、使用性、修復性、安全性に加えて「ねばり強さ」も求められます。「ねばり強い」構造とは災害にいたる作用による損傷などをできるだけ遅らせるような施設構造であるということです。要するに重大災害が起こった場合、施設が壊れるまでの時間をできるだけ遅らせて、その間に避難できるような構造であれ、という事です。
④供用性
施設の供用、利便性の観点から施設が保有すべき性能を示します。施設ごとに規定されます。施設が適切に配置されているか、施設長、天端高など構造的諸元は適切か、静穏度が規定内に収まっているか、必要な付帯施設はあるか、などを規定しています。
施設に共通する規定として以下のものがあります。
⑤施工性
信頼性がある適切な方法で妥当な工期で安全に施工できる性能。施工告示を遵守することで、施工性を満足しているとみなしてよいとされています。*施工告示とは「技術基準対象施設の施工に関する基準を定める告示」のこと。
⑥維持管理性
施設の劣化に対して、技術的に可能で経済的に妥当な範囲で補修補強ができる性能。維持告示を遵守することで維持管理性を満足しているとみなしてよいとされています。*維持告示とは「技術基準対象施設の維持に関し必要な事項を定める告示」のこと。
二 設計津波
技術基準対象施設で発生を想定する津波の中で、設計供用期間中に発生する可能性が低いけれども、万一発生した場合に施設には大きな影響を及ぼすものを言います。東日本大震災で起こった津波のようなものを想定しています。
なお、ここで「設計供用期間」とは、設計上要求性能を満足し続けられる期間、として設定されたものを言います。代表的な港湾施設の場合、設計供用期間と主たる変動作用の再現期間の関係は次のようになります。
防波堤(設計供用期間50年のとき)→レベル1地震動75年。設計波50年。
防波堤(設計供用期間100年のとき)→レベル1地震動75年。設計波100年。
三 変動波浪
技術基準対象施設で発生を想定する波浪のうち、設計供用期間中に発生する可能性の高いものをいいます。
四 偶発波浪
技術基準対象施設で発生を想定する波浪のうち、設計期間中に発生する可能性が低いけれども、万一発生した場合に施設には大きな影響を及ぼすものを言います。
五 レベル一地震
技術基準対象施設で発生を想定する地震のうち、設計供用期間中に発生する可能性の高いものをいいます。
六 レベル二地震
技術基準対象施設で発生を想定する波浪のうち、最大規模の強さの地震を言います。まさに東日本大震災のようなものです。
七 耐震強化施設
「港湾計画の基本的な事項に関する基準を定める省令」第十八条で定められた大規模地震対策施設、又は大規模な地震が発生した場合それに対する機能を有していることが必要な技術基準対象施設を言います。
2.2 告示にかかわる用語
一 永続作用
自重、常時の土圧、静水圧、環境作用など、ある期間を通じて絶えることがない作用を言います。
二 変動作用
大きさの時間的変動が平均値より大きくかつ単調変化ではないもので、地震荷重、風、波浪、水圧、水の流れ、船舶の接岸及び牽引による作用など、設計供用期間中に生じる可能性が高いと想定される作用を言います。
三 偶発作用
津波、レベル二地震動、偶発波浪、船舶の衝突、火災等々、設計供用期間中に生じる可能性が低いけれども発生すると施設に大きな影響を及ぼすと想定される作用を言います。
四 性能規定
性能照査を行えるよう、要求性能を具体的に記述した規定です。先述の通り、工学的用語で書かれます。
五 性能照査
先述の通り、技術基準対象施設が性能規定を満足していることを確認する行為です。
六 永続状態
性能規定や性能照査で検討する作用のうち主な作用が永続作用であるものを言います。
七 変動状態
性能規定や性能照査で検討する作用のうち主な作用が変動作用であるものを言います。
八 偶発状態
性能規定や性能照査で検討する作用のうち主な作用が偶発作用であるものを言います。
九 震源特性
地震エネルギーを放出する震源断層の壊れ方を示します。断層面でとくに強い地震波を出す領域や断層破壊が進行する方向性を示します。
十 伝播経路特性
地震の伝播経路が地震動に与える影響を示します。地震波が伝搬する間に起こる距離による減衰などを示します。
十一 サイト特性
地震波の表層堆積層への影響を示すものです。発生源が同じ地震なのに場所によって揺れやすい場所や揺れにくいところがあるのはサイト特性によります。
十二 危険物
「港則法施行規則の危険物の種類を定める告示」で定める危険物を言います。
十三 港湾管理用基準面
技術基準対象施設の建設、改良、維持の基準となる水面を言います。
3.終わりに
今回もちょっと長かったですが、基本的な用語をしっかりと押さえておくと、現場での実務にも役立ちます。たとえば目の前にある変状が発生した原因が変動作用によるものなのか、偶発作用によるものなのか、など考えながら現場を見ると、現場にそのサインが隠れていることに気づいたりすることもあります。
どんなに複雑そうに見える状況でも、基本に帰ってその内容を解きほぐしてあげれば、意外にその中身は基本項目の複合であったといったこともあり得ます。業務を進めながらも「常に基本に帰る」視点も重要だと思います。