2.1.技術士に求められる資質能力とは何か
科学技術・学術審議会技術士分科会による「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」という文章があります。この文章の中には「技術士であれば最低限備えるべき資質能力」[1]として以下「2.2.技術士に求められる資質能力とは何か」に示すような資質能力を提示しています。
このような資質能力を持つことにより、「(遅くとも)35歳程度の技術者が、技術士資格の取得を通じて、実務経験に基づく専門的学識及び高等の専門的応用能力を有し、かつ、豊かな創造性を持って複合的な問題を明確にして解決できる技術者(技術士)として活躍することが期待される。」[1]のだとしています。
ここで「複合的な問題を明確にして解決できる技術者(技術士)」であることが表示されております。これは前回記事「技術士にふさわしい業務とは何か【1】~技術士の定義を確認する」(https://pormejp.com/2023/02/07/%e6%8a%80%e8%a1%93%e5%a3%ab%e3%81%ab%e3%81%b5%e3%81%95%e3%82%8f%e3%81%97%e3%81%84%e6%a5%ad%e5%8b%99%e3%81%a8%e3%81%af%e4%bd%95%e3%81%8b%e3%80%901%e3%80%91%ef%bd%9e%e6%8a%80%e8%a1%93%e5%a3%ab%e3%81%ae/)でも書いた事と同様なことが述べられています。やはり基本は、複合的な問題を解決できる能力を持って計画、研究などの業務にあたることが求められているのだな、ということがわかりました。
それではその具体的な内容を見てみましょう。
2.2.技術士に求められる資質能力とは何か
以下に「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の項目内容を引きながら検討をしてみたいと思います。
専門的学識
「技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務」について「技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識の理解と応用」ができることとあります。
ここで大きなポイントは、「技術部門全般にわたる」知識の理解と応用、つまり自分の場合、建設部門全体にわたる知識の理解応用能力が必要であるということでしょう。さらに、自分の場合の予定選択科目である「港湾」部門知識の理解と応用能力が必要であるという事でしょう。
「自分は港湾だから、港湾工学はよく知っているけれども他の建設部門の内容は全く知らない」では話にならないと言うことなのでしょう。これから基本知識をインプットする際に、建設部門全般の動向にも気を付けていきます。
また、「技術士の業務に必要な、我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用」することも求められます。法令も港湾法関連だけではなく、建設業法関連もカバーする必要がありそうです。また、社会に関する専門知識ということで、「白書」などにも触れておく必要がありそうです。
問題解決
「業務遂行上直面する複合的な問題」について「これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析する」とあります。
あぁ、やっぱり出てきた「複合的な問題」ですね。やはりここが重要なポイントとなりそうです。
さらに「複合的な問題」について「相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮し複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善する」事も重要な事のようです。
マネジメント
ここでは「品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的」として、「業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程で人員・設備・金銭・情報等の資源を配分」できる能力が求められています。
例えば、致命的な原因がないような状況であるのに工期が遅れてしまったようなときに、要求事項を満足させるためにヒト・モノ・カネを各種のトレードオフを考慮しつつ再配分できますか?と聞かれたときに、筋道立てて答えられるかどうかを問われるという事でしょうか。
いま仮に工期の話をしましたが、「品質、コスト、生産性、リスク対応」の場合も同様に要求事項を満足させるためにヒト・モノ・カネを再配分できますか?ということだと思うので、今後ケースを分けて自分の経験を整理したいと思います。
評価
「業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価」して「次段階や別の業務の改善に資する」ことが求められています。
う~ん。この項目は不安だなぁ。
自分は、この「評価」についてはもう少し勉強が必要だと思っています。自分にとって未到達の弱い部分だなと思ってます。理由は、評価をするという以上、何らかの「モノサシ」を定義してそれに基づき業務をすすめる必要があると思うのですが、自分の場合、その「モノサシ」をしっかり定義して業務を進めていたかと問われると、心もとない状態だからです。
その一方で希望的な見解もあります。この「評価」能力を検定するために「筆記試験の問ⅠとⅢでは、『効果とリスク、リスクの対応策を述べよ』と出題」[2]されるとの説もあります。このサイト「技術士ノート」(2023)によると、評価の項目は上記のようにして問われるので、それへの対応として「①国際的なプラスの影響②環境保全上の効果③他の技術領域への応用等」の観点から書けるように準備すべきだとされます。
これは心強いコメントですね。「効果とリスク、リスクの対応策」を述べる鍛錬をすれば、評価能力を示せたことになるというのですから。
当初の不安が少し解消され、希望の光がやや見えたような気がします。
コミュニケーション
「業務履行上、口頭や文書等の方法を通じて明確かつ効果的な意思疎通を行う」ために「雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者とのコミュニケーション」ができるかどうかを問われています。
これは、自分の通常の業務では必須事項だし、何度も色々な「関係者」にいじめられながらも業務を進めてきた経験もあるwので、自分の経験を整理したいと思います。
なお、海外で業務をする場合「海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。」が必要らしいです。
リーダーシップ
「業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持」ち、「多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努める」ことが求められています。
「リーダーシップ」って、「オレがリーダーだ」と関係者に上下関係を叩き込む事ではないのですねw
あやふやではなくしっかりとした業務のデザインを自分の中で確立した上で、ステークホルダの利害調整、取りまとめをするのがリーダーシップという事になるのでしょう。
自分の経験から具体例をこれから抽出していきたいです。
なお、「海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。」も挙げられていました。
技術者倫理
業務をすすめるにあたって大前提として「公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮」する必要があるというという点が大事ですね。
この大前提を踏まえて「社会、文化及び環境に対する影響を予見」し、「地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続性の確保」し、「技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚」して
「倫理的に行動」することになるという事でしょう。
また「業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守」することも重要ですし、「業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負う」ことも求められています。
継続研さん
「技術士はこれらの資質能力をもとに、今後、業務履行上必要な知見を深め、技術を修得し資質向上を図るように、十分な継続研さん(CPD)を行うことが求められる。」と技術士コンピテンシ前文に書かれています。
自分の場合、土木学会でCPDを行っています。
海洋港湾構造物維持管理士の資格継続条件に5年間で50単位以上のCPD取得が義務付けられているためです。
1年平均で10単位のCPD取得が技術士として十分なものなのか足りないのか等については今後調べていきたいと思います。
2.3. 考察
今回はザっと技術士のコンピテンシについて見ました。判明した事は以下のことです。
技術士として活動するために一番重要な能力は複合的な問題解決能力である。
しかし、それだけを磨いただけでは技術士とは言えない。加えて専門知識の理解応用能力、マネジメント能力、評価能力、コミュニケーション能力、リーダーシップ、技術者倫理、継続研さん、これらが揃って初めて、技術士として最低限の資質を持ったのだと言える。
そもそも技術士試験とは、私が技術士登録をして技術士を名乗り、その業務を遂行するにふさわしい者かどうかを判定するものだと思います。そういう意味で今回検討したコンピテンシの各項目をしっかりと身に着ける事が重要だと思いました。
次回は、実際の試験の構造について検討し、試験でどんな事が問われるのかを確認していきたいと思います。