1.1. 法律で技術士という資格が規定されている意味
とりあえず法律では技術士とはどのように規定されているのかを調べました。これは「技術士法」という法律の第一条[1]に定められていました。その中身は、要するに以下のような話になるのでしょうか。
「技術士」という資格を法律で定めることで業務の適正化をはかりますよ。法律で定めることにより、「自称」技術士など、怪しげなものを排除しますよ。国が認めた技術士を配置することで業務の適正化を図りますよ。業務を適正化することで、科学技術の発展と国民経済の発展に役立てますよ。
上記より、技術士とは、科学技術が発展することで国民経済の発展に寄与するために国が定めた資格であるのだろうという事がわかりました。
1.2. 「技術士」と名乗るための条件
では科学技術の発展を通じて国民経済の発展に寄与するための国家資格である技術士を名乗るための条件とは何かを調べました。これは技術士法第二条[2]に規定されていました。
法律が定めた技術士登録を受けていないと技術士は名乗れないよ。技術士登録を受けて技術士と名乗って、技術士としての業務を行う人のことを技術士と呼ぶよ。
技術士としての業務と技術士との関係は以下のように規定されていました。
技術士は、(登録を受けて技術士と名乗った上で)科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項について以下の業務を行う人だよ。
【業務内容】計画、研究、設計、分析、試験、評価といった業務と、これらの業務指導をするという業務
たとえば業務内容にある「計画」という業務は、我々も普通に行うわけです。調査計画やら施工計画なんかは、日常的な業務として策定したりしています。たいていは前例やマニュアルを元にサクサクと策定(でもないかw)している人も多いのではないでしょうか。
しかし技術士にふさわしい「計画」業務とは、「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」についての「計画」業務だと法律では言っています。つまり「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」でない前例やマニュアルを元にサクサクと策定している「計画」などは、そもそも技術士の業務ではないということですね。
私の業務でも、国交省が出している維持管理の「ガイドライン」のみに素直に従って点検調査をしているだけの場合は、技術士としての業務はしていないという事になるでしょう。(そもそも「点検調査」は技術士としての業務に入っていない)
また報告書の写真の位置がズレてるとか、文字が大きい小さいにこだわっているだけでは技術士としての業務をしているとは言えないという事です。(こだわる場所が違う~これ実話なんで笑えないのですが)
また条文では「人文科学のみに係るものを除く」と書いてあるので、おそらく「ゲーテの書籍の読破計画」などは認められないのでしょう。社会科学や自然科学に関わることはOKってことでしょうか。
では、「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」とは何なのでしょうか?
1.3. 科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項とは何か
「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」とは何かについて、色々と調べていますが、自分の能力だとドンピシャリな解答を見つけることができませんでした。
しかしこの中で、「高等の専門的応用能力は、(A)問題点が何かを見つけ出す、(B)課題を明確に示す、(C)解決策を実行する、(D)実行を踏まえて、改善策を立案する──の4つに分かれる。」[3] 松谷(2020)という見解を見つけました。これによれば「高等の専門的応用能力」とは問題点の把握から解決策を実行した後の改善案立案までの大きく分けた4つの行動を示すものであると言えます。
要は、問題点(理想と現実のギャップがあるもの)を見つけ出して、課題(そのギャップを埋めようとすると立ちはだかる困難)を明確に示し、その解決案を立てて実行し、その結果を評価して改善案を作るという行動をできる能力があるということが、高等の専門的応用能力がある、という事なのでしょうか。
松谷(2020)の定義は、結局、問題解決能力について述べられているのではないかと考えました。問題点発見、問題解決のための課題抽出、解決策実行、評価と言うプロセスを経て学んだ事が、次の問題解決にも生かされるのではないかと思えたからです。
こう考えると、「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」とは、科学技術に関する問題に関して、問題点発見、問題解決のための課題抽出、解決策実行、評価を行える能力つまり問題解決能力を必要とする事項であると言えるかもしれないと考えました。
なお、さらにこの点において、技術士が解決すべき科学技術に関する問題は、単純なものではなく複合的な問題であるべきだとする説[4]onowith(2018) もあります。この説によれば、技術士試験はもちろん、技術士として仕事をする上でも「「複合的な問題」が極めて重要なキーワード」であるとされます。
onowith(2018)によれば「複合的な問題」を以下のように例示しています。
① 複数の要因が絡む問題
②トレードオフの解決が必要な問題
③重大なリスクを含む問題
④標準的手法で解決できない問題
⑤解決マニュアルが無い問題
⑥極めて稀な事象を含む問題
⑦利害関係者の調整が必要な問題
⑧複数の専門技術が必要となる問題
そしてonowith(2018)は「複数要因が絡みトレードオフや重大リスクが含まれ、技術士に解決を託すべき問題」こそが技術士が立ち向かい解決すべき問題だとします。
この見解も加味して考えると、「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」とは、科学技術に関する複合的な問題に関して、その問題点発見、問題解決のための課題抽出、解決策実行、評価を行える能力、つまり問題解決能力である、と自分なりに定義ができました。
1.4. 以上から考えたこと
今回、いろいろと調べてどうして技術士という資格が法律で規定されているのか、という点について、その目的を知れたのは大きかったです。
また技術士として行う業務とは「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」に関する業務であり、具体的には科学技術に関する複合的な問題(複数要因が絡みトレードオフや重大リスクが含まれ、技術士に解決を託すべき問題)に関して、その問題点発見、問題解決のための課題抽出、解決策実行、評価を行える能力、つまり問題解決能力を活用して行う具体的な計画、研究、設計、分析、試験、評価といった業務と、これらの業務指導であると理解しました。
そう考えると、例えば現場にあるひび割れ調査においてマニュアルにも載っていないような、一見して単純な収縮ひび割れとは思えないひび割れを発見したときに、様々な問題発生原因を想定し、その検証を行うための調査項目を設定し、各種調査を行うことで原因究明をして、補修計画をたてるための「調査計画」を立案してこれを実行し、その効果を検証する話なども、十分に「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」に関する計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務と言えるのではないかと思いました。
その上でさらに思い出すと、毎年3月頃に自分の実務を振り返って、技術士試験のための業務経歴書を書こうとした時に、「維持管理調査点検」業務は「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項」ではなさそうだから受験資格なんかないや!と、その時点で毎年受験断念をしていたことは残念な事だったと思います。
もう一歩踏み出して業務内容を洗ってみると、意外に受験資格に該当するような業務も自分はしていたことに気づきました。
今回は、「技術士にふさわしい業務とは何か【1】~技術士の定義を確認する」という事で、主に条文を見ることで技術士にふさわしい業務とは何かについて考えてみました。次回は「技術士に求められる資質能力とは何か」と言う点について、コンピテンシの視点から検討してみようと思います。
[2] 技術士法 第二条 この法律において「技術士」とは、第三十二条第一項の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行う者をいう。
[3]高等の専門的応用能力をアピール .松谷孝弘(2020),日経クロステック,https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01214/040900005/ ,(2023年2月6日参照)
[4]技術士が解決する複合的なエンジニアリング問題ってなんだ!? ,onowith(2018),https://onowith.onokatsuhiro.com/post-670/,(2023年2月6日参照)